男のレイン・コート 3
その着方というのは、たしか二段目までボタンを掛けずに、衿を思いっきり大きく広く折り返して(ということはVゾーンを大きく見せて)、あたかもジャンパーかなにかを着るような感覚で、ギャバンはそのコートを着ていたのでした。
そういえば、かの「カサブランカ」におけるハンフリー・ボガートや、「いぬ」におけるJ・P・ベルモンドなんかも、こういうギャバン風の崩した、一種いなせな着こなし芸を披露していました。
これとはまた対照的に、「歴史は夜作られる」のシャルル・ボワイエや、「哀愁」におけるロバート・テーラーのような端正なトレンチ姿にも、忘れがたい独特の味わいがあったのを、私は憶えています。
ギャバンのように崩して着るにせよ、ボワイエのように端正に着るにせよ、トレンチ・コートを着るさいの一番のポイントは、コートは常に着古したもの、或いは着慣れたものを用いるべきだということ。
けっして新品のそれであってはならないというのが、私の持論です。
新品である場合には、何度か水を通してくたくたにした上で、あらためてクリーニング屋に出して防水加工してもらい、そののちに初めて袖を通すというのが、理想的なやり方だといっていいでしょう。
たしかにそれは、新品のジーンズを買ったとき同様に、手間と時間のかかることではあるでしょう。
しかし、男のおしゃれにとってこういう仕込みというか、下塗備ほど重要なものはほかにないことを考えるなら、やはり閑却すべからざる事柄として、心にとどめておくべきではないかと思われます。
目に見えない部分に神経をつかうこと。
これこそが男にとってのおしゃれというものであり、ダンディズムというものであるからです。